No.2

産業医のメンタルヘルス活動                                                  石川 良樹(野村病院 予防医療センター)

 

   かつては定期健康診断などの労働者の身体面からの健康管理が産業医の主たる業務とされていたが、近年はメンタルヘルスへの対応が重視され、メンタル疾患の経営リスクや社会的コストが意識されるようになった。労働者の50%以上が仕事でストレスを感じているとされ(平成25年労働者健康状況調査)、精神障害を原因とする労災認定請求数も年々増加している(図1)。IT化の促進、年功序列制の廃止と成果主義の導入、業務の多能化など、労働環境や経済環境の急激な変化がその背景として指摘されている。医学的知識だけではなく、面談や研修を始めとしたメンタルヘルス活動をしっかりと行うことが産業医に求められている。

 さて労働者のメンタルヘルス対策として、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成21年3月改訂)、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成27年11月改正)が厚労省から出されており、産業医のメンタルヘルス活動の重要な指針となっている。また昨年労働安全衛生法が改正され一次予防を目的としてストレスチェック制度の導入が決まったが、これについては次回に紹介する。

 二次予防(早期の気づき・早期治療)対策としては、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で挙げられている4つのケア(セルフケア、ラインのケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)が重要である。産業医には「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」で中心的な役割を果たすことが期待されている。具体的には①管理監督者も含めた教育と研修の実施 ②長時間労働者等に対する面談など相談体制の確立 ③就業上の配慮が必要な場合に意見を述べること ④個人の健康情報の保護 ⑤事業場外資源との連絡調整を行うこと等が挙げられる。なおこれらの対策は衛生委員会の付議事項として議論される(労働安全衛生規則第22条)。産業医は形式的な参加ではなく積極的に衛生委員会をリードすることが必要となる。

 次に三次予防(休職からの復帰・再発防止)では、主治医の判断を参考にしながら、復職の実際の可否および就業上の配慮の有無を判定する。本人の同意を得た上で「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」を活用し、主治医との意思疎通を図ることも重要である。復職可否の判断に際しては、主治医の診断書や本人の希望に加えて、表1に示した事項について産業医として検討し職場復帰準備性を判断する。なお事業場全体のルールの制定や復職時の異動等は、最終的には会社(人事)の決定事項であるが、産業医として参考意見を述べる必要がある。また職場環境の調整や復職後のフォローアップも必須で、特に就業配慮の解除の判断は適切に行いたい。リワークプログラムの導入も新しい課題となっている。

 表1

 ① 職場復帰への意欲が十分にあること 

 ② 安全な通勤が一人で安定してできること

 ③ 睡眠リズムが整っており日中の眠気がないこと

 ④ 当日の疲労が翌日までに回復できること 

 ⑤ 周囲と挨拶等のコミュニケーションが普通にできること

 ⑥ 業務に必要な作業をこなすことが可能であること

 ⑦ 定められた就業時間中は注意力や集中力が維持できること


(医学部新聞平成28年3月号より転載)