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1. 慶應産業保健研究会について                       山澤 文裕(丸紅株式会社 産業医)

  

    産業医は、事業場において労働者の健康管理等(表)について専門的な立場から指導助言を行う医師です。労働安全衛生法によって、一定規模以上の事業場は産業医選任の義務があります。すなわち、企業に診療所を設置しなければならない法律はありませんが、企業は産業医を選任しなければなりません。産業医になるには、医師であることに加え、専門的医学知識について法で定める一定の要件を備えなければならず、産業構造の変革に対応した資質向上が常に求められます。そこで日本医師会は平成2 年に認定産業医制度を設置し、多くの三四会員も日医産業医研修会に参加されたことと思います。

慶應義塾はわが国の経済界とは切っても切れない関係です。古くより企業の診療所長・産業医として産業現場の第一線で労働者の健康管理、作業管理、作業環境管理等に携わっていた三四会員は数少なからずいましたが、横断的な組織はまったく存在しませんでした。そこで、平成8年に髙橋正人先生(38回、野村證券、当時)、山田幸寛先生(44回、三越、当時)、江帾良晴先生(45回相当、富士銀行、当時)、近藤和興先生(50回、読売新聞社)、及川孝光先生(52回、三和銀行、当時)、伊東信彦先生(61回、日本生命)、山澤文裕(60回、丸紅)の7人が会議を繰り返し、産業医としての資質向上、情報交換および慶應医学部と企業診療所・産業医との良好な関連を求め、「慶應内科産業保健研究会」を組織し、初代会長に髙橋正人先生が就任されました。平成9年5月23日に第1回総会を開催し、平成

10年には外科や公衆衛生などで研修された三四会員にも広く声をかけ「慶應産業保健研究会」へ改組し、平成28年は第19期を迎えました。慶應医学部教授を中心に講師として招き、年に2回研修会を実施しています。慶應関連病院で研修経験のある他大学卒の医師にも会員資格を拡大し、会員数は現在89名です。企業の専属産業医の他に、開業しながら嘱託産業医として活躍されている先生方も加わっています。

産業医としての業務は年々拡大しています。事業場の視察や健康診断業務が中心の時代から、一次予防のため健康増進、過重労働対策、メンタルへルス不調者対策、さらに平成27年12月からはストレスチェック制度が実施され、健康経営へ積極的な関与が期待されています。


産業医の職務

1.健康診断及び面接指導等の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。

2.作業環境の維持管理に関すること。

3.作業の管理に関すること。

4.前3号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。

5.健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。

6.衛生教育に関すること。

7.労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

(医学部新聞 平成28年2月号より転載)